☆勉強会のお知らせ(秋吉 好)

2018年9月8日

 残暑厳しい中にも、夜は虫が煩いほど鳴いています。本会は9月も第306回目の勉強会をひらき、尾崎一雄の『暢気眼鏡・虫のいろいろ』を中心に読みます。尾崎一雄は志賀直哉の影響下で文学を始めた人で、私小説を書き続けました。『暢気眼鏡』は昭和8年発表で、小林多喜二の虐殺など重苦しい時代状況の中で、売れない作家と幼い妻の貧乏を楽しむようなユーモラスな作風が評価され、同名小説集が第5回芥川賞を受賞しました。『虫のいろいろ』は昭和23年の発表で、死と隣り合わせの長患いの私が、家の中を動きまわる蜘蛛や蠅や蚤、そして、子供も含めて、生きているものに対する愛おしさを書いています。ご参加下さい。

 

2018年8月11日

 酷暑、水害、台風と続きますが、いかがでしょうか。本会は8月も第305回目の勉強会をひらき、佐多稲子の『夏の栞』を読みます。この小説は昭和57年の発表で、3年前に亡くなった中野重治の入院から臨終前後、さらに、1年後に中野重治の遺骨を故郷福井の生家近くの墓所に納めるまでを書いています。2人の出会いは、大正15年3月ごろ中野、窪川鶴次郎、堀辰雄など雑誌「驢馬」の同人が、当時彼女が働いていたカフェーに来たことから始まります。それから50年、公私の別なく続く文学者同士の交流を、時代背景、文学運動、政治運動との関わりでを点綴しながら書いた、中野重治の追悼の書であり優れた私小説とも言えます。ご参加下さい。

 

2018年7月14日

 梅雨明け間近になりました。本会は7月も第304回目の勉強会をひらき、泉鏡花の『歌行燈』を読みます。この小説は明治43年の発表で、彼の能楽ものの代表作です。当時は自然主義文学の全盛で、鏡花は過去の作家と思われました。しかし、母方の祖父が大鼓師で、伯父も宝生流のシテ方という環境に育ち、能楽に対する関心は深く、能楽に取材した小説を書くことで苦境を脱しました。この小説は、桑名で能楽師が、破門した甥と再会する話で、甥は博多節の門付けに身を窶していました。戯作調の表現に馴染みにくいところがありますが、命を賭して芸道に生きる人々の厳しさを読み取ることができます。テキストは青空文庫に現代語訳があるので、それで読んでも結構です。ご参加下さい。

 

2018年6月9日

 杜鵑の鳴く頃となりました。本会は6月も第303回目の勉強会を開き、嘉村礒多の作品集『業苦・崖の下』を読みます。彼はわずか六年の作家活動で30数編の小説を書きましたが、今回は昭和3年に発表された代表作『業苦』『崖の下』を中心に読みます。妻子や両親を捨て、女性と駆け落ちして東京で暮らす様子を書いていますが、罪悪感や過剰なまでの感情表現と相俟って、どうしようもない人間の業をあばきたてます。そしてそれが軍国主義化が強まる昭和初期の時代相と重なり、評論家の平野謙は「私小説の一極北」と評しました。ご参加下さい。

 

2018年5月12日

 新緑の季節です。本会では5月も第302回目の勉強会を開き、色川武大の『百』を読みます。九十五歳の父親の老耄を描いた『百』、六つ違いの弟との関わりを描いた『連笑』、家を捨て無頼の生活を送る自責が猿や猫の幻影となって責める『ぼくの猿、ぼくの猫』、老人病院へ入れた九十六歳の父親を連れ戻す『永日』の四編を集めています。父親が四十代で二十ほど年の離れた母親とのあいだに生まれた長男の私、六つ違いの弟が、それぞれ屈託を抱えながら、戦前戦後を生き延び、不可思議とも思える家族愛で繋がり、夫婦、父子、母子、兄弟の物語を描いています。ご参加下さい。

 

2018年4月14日

 桜の季節です。本会は4月も第301回目の勉強会を開き、小川洋子の平成24年発表の『ことり』を読みます。メジロの鳥籠を抱いて孤独死した老人は、自閉症でポーポー語で小鳥と交感するお兄さんと暮らしていましたが、お兄さんが幼稚園の鳥小屋の小鳥を見ていて急死したあと、ずっと鳥小屋の清掃をして園児から小鳥の小父さんと呼ばれます。それも、子供の誘拐事件の風評被害を受けて出来なくなり、怪我をしたメジロを世話してポーポー語で話すようになります。現代社会の片隅でひっそりと生きて死んでいく人間を描いて物語世界を造形し人間が生きる意味を問いかけます。ご参加下さい。

 

2018年3月10日

 弥生3月です。本会も無事、第300回の勉強会を開くことになりました。今月は芹沢光治良の『巴里に死す』を読みます。昭和17年に発表され、昭和28年に仏訳も出て、世界的に高い評価を受け、ノーベル賞候補にもなりました。留学した夫と巴里で暮らす主人公が、妊娠と同時に結核を罹患し、中絶を拒んで女児を出産し亡くなります。彼女は夫の昔の恋人に嫉妬しながらも知的で自立した女性になるため精進し、その苦悩を3冊の手記に残し、20年後、娘がそれを読みます。戦前と現在では、女性の考えに大きなズレがありますが、議論で深めたいと考えます。ご参加下さい。

 

2018年2月10日

 寒い日が続きますが、いかがでしょうか。本会では2月も第299回の勉強会を開き、佐伯一麦の『渡良瀬』を読みます。平成5~8年まで文芸誌「海燕」に連載後、中断していたのを、平成25年に続きを加え刊行されたもので、昭和の終焉を時代背景に、子供の転地療養と妻との生活の立て直しのため、東京から茨城県古河市に移住した28歳の男が、配電盤の組立工として土地に根付いていく様子を描いています。佐伯一麦の文学は、普通に生きる人間の生活を、外連味なく描くことで文学として結実させ、私小説の伝統を現代に甦らせたものとして高い評価を得ています。ご参加下さい。

 

 

2018年1月13日

 2018年も目前になりました。今年は充実した一年だったでしょうか。本会では1月も第298回の勉強会を開きます。今回は中勘助の『銀の匙』を読みます。前編が大正2年、後篇が4年に東京朝日新聞に連載された自伝的な作品です。茶箪笥の抽匣から出てきた銀の匙にまつわる伯母さんや女の子との思い出を、幼児期から小学校入学ごろまでを書いた前編と、日清戦争を讃美する教師や同級生に馴染めず、兄の押付けにも反発し、伯母さんと再会や、友だちの別荘での一人暮らしなど、孤独で感受性豊かな少年の日々を書いた後編は、そこから読み取るものが実に豊富で、多様な読みが可能であり、現在まで読み継がれてきました。ご参加ください。

 

 

2017年12月16日

 寒くなりました。本会では12月も第297回の勉強会を開きます。今回は中山義秀の『咲庵』を読みます。戦国時代、美濃の斉藤義龍に所領を奪われた明智光秀は、朝倉義景の客将から織田信長に属して重用されますが、その膝下に甘んずることが出来ず、本能寺の変で信長を弑逆して天下を得るものの、羽柴秀吉に攻められて、京都山科で土民に殺されます。この作品は明智光秀の叛逆の本質をあきらかにした中山義秀の歴史小説の頂点を示すもので、高い評価を得ました。ご参加下さい。

 

2017年11月11日

 秋も深まりました。本会では11月も第296回の勉強会を開きます。今回は森田草平の『煤煙』を読みます。彼は明治41年に平塚明(雷鳥)と雪の塩原で心中未遂事件を起こし、社会的批判に曝されますが、その顛末を『煤煙』に書いて評判になり作家として認められます。しかしそれはあくまでも、男性の視点で事件を文字化したもので、女性の立場を無視しています。この後、平塚明は社会が強いる良妻賢母型の女性像を否定して「新しい女」をめざし、女性だけの文芸誌「青鞜」を創刊し、日本の女性解放運動の第一線に立ちます。ご参加ください。

 

2017年10月14日

 虫の集く音も心地よくなりました。本会では10月も第295回の勉強会を開きます。今回は木山捷平の『長春五馬路』を読みます。木山は昭和19年12月に新京(長春)へ行き、そこで敗戦を迎えました。この小説は、日本という国家の後ろ盾をなくした難民が、生き残ることさえ難しい過酷で悲惨な状況の中で、逞しく生きる姿を、作者と等身大の42歳の男を通して描いたもので、刊行されました。酷い生活をリアルに描くのではなく、ユーモアさえ感じさせる明るいトーンで書いているのが、特徴と言えます。ご参加下さい。

 

2017年9月9日

 残暑が続きます。本会では9月も第294回の勉強会を開きます。今回は瀬戸内寂聴の『美は乱調にあり』を読みます。この作品は昭和40年に発表され、関東大震災のどさくさに甘草憲兵大尉に殺されたアナーキスト大杉栄と伊藤野枝を中心に、大正時代の「新しき女」を描いています。野枝の生い立ちから英語教師で後のダダイストの辻潤との生活と破綻。野枝は大杉に走りますが、彼を金銭的に支えていた神近市子が嫉妬から彼を刺す日陰茶屋事件が起こります。なお、昭和59年発表の『諧調は偽りなり』は続編で、大杉栄の生い立ちから甘粕事件までを書いています。ご参加下さい。

 

2017年8月12日

 暑い日が続きます。本会では8月も第293回の勉強会を開きます。今回は石川達三の戦争小説『生きている兵隊』を読みます。彼は昭和12年12月からひと月南京陥落直後の中国を取材して、戦争の真の姿を伝える意図でこの小説を書き、3月の中央公論に発表しましたが、軍部の激怒を買い、即時発売中止、禁固4カ月執行を猶予3年の実刑を受けました。われわれが読むことができるようになったのは敗戦の年の十二月ですが、本年8月15日で72回目の終戦記念日を迎え、この作品を読んでその背景を考えたいと考えます。ご参加ください。

 

2017年7月8日

 ようやく梅雨らしくなりました。本会では7月も第292回の勉強会を開きます。今回は平成2年発表で第103回芥川賞を受賞した辻原登の『村の名前』を読みます。商社マンが畳表を買い付けに行った桃源県桃花村は陶淵明の詩にある古い村で、観光開発を優先する村の幹部は古い文物の一掃を図り、反対派は香港へ脱出を企てます。この小説の発表は天安門事件の2年後で、改革開放の矛盾を突きつけますが、その後の中国の劇的変化は日本人の古い中国観を否応なく越えて行ったといえます。ご参加下さい。

 

2017年6月10日

 紫陽花の頃となりました。本会では6月も第291回の勉強会を開きます。今回は松下竜一の『豆腐屋の四季』を読みます。母を亡くして、家業の豆腐屋を継いだ30歳の青年が、昭和42年11月から1年間、生活を短歌に読んで朝日歌壇に投稿する日々と、その背景をなす生活を綴ったもので、TVドラマにもなって広く知れわたりました。その後、松下は冤罪事件や反公害運動などに主体的に関わるようになりますが、その原点は、つねに、生活者や弱者の立場にあり、そこから権力に対して異議を申し立ててきました。ご参加下さい。

   (出席者に同人誌「異土」14号をお渡しします)

 

2017年5月13日

 新緑が美しい頃です。本会では5月も第290回の勉強会を開きます。今回は遠藤周作の『わたしが・棄てた・女』を読みます。戦後間もないころ、貧乏学生が遊びで抱いた女工の森田ミツは自分を棄てても相手に優しさを与える女性で、会社員になった男と再会したあと、ハンセン病で入院します。ミツは修道尼の献身的な看護に接し、誤診とわかっても、自分も病院に残りますが、交通事故で亡くなります。軽い筆致ながら、ハンセン病の看護に一生を尽くした井深八重にヒントを得て「無償の愛」に生きる女性を描きます。モラルハザードの風潮に馴らされて久しい現代、遠藤が描く「聖女」の意味を共に考えたいと思います。ご参加ください。

 

2017年4月8日

 花の季節が来ました。本会では4月も第289回の勉強会をひらきます。今回は堀辰雄の『風立ちぬ・美しい村』を読みます。第一次大戦後の西欧の新心理主義に学んだ堀辰雄は、芥川龍之介の自殺を受けた昭和5年の『聖家族』で文学的に出発し、昭和8年の『美しい村』で、軽井沢の自然のなかで新しい生き方と一人の少女との愛を見い出し、昭和11~13年の『風立ちぬ』で、サナトリウムに入った少女(婚約者)に付き添い、その死を見つめ、それを乗り越えて共生する鎮魂の思いを小説にしました。そうした堀辰雄の文学が現代の読み手に何を伝えるかを共に考えます。ご参加ください。

 

2017年3月11日

 修二会の頃となりました。本会では3月も第288回の勉強会をひらきます。今回は黒島伝治の『渦巻ける烏の群、他3編』を読みます。これらは大正末年から昭和初年に発表されたもので、貧者の悲劇と抵抗、シベリアでの戦争や軍隊内部の理不尽さを書いています。黒島はチェーホフや志賀直哉を学んだ人で、事実に真実を語らせる写実的手法で物語を組み立て、プロレタリア文学という枠を越え、文学としての確かな広がりをご参加ください。

  (勉強会終了後、浅田高明、松山愼介の出版を祝う会を行います)

 

2017年2月11日

 梅の咲く頃となりました。本会では2月も第287回の勉強会をひらき、野口冨士男の『風の系譜』を読みます。この小説は作者28歳の昭和14年に発表されたもので、芸者の母をモデルに、明治30年代から大正11年の関東大震災前までの時代を花柳界を生きた女とその家族を書いています。野口は若い頃から秋聲の影響を受け、この小説でも、単なる私小説というより、一定の時代相の下に生きた母の生き様を、客観的に描き出しています。ご参加下さい。 

 3月ごろ、松山愼介『「現在」に挑む文学 村上春樹・大江健三郎・井上光晴』(響文社)及び、浅田高明『「生命」と「生きる」こと ハンセン病を巡る諸問題を視座として』の出版記念会を行う予定です。

 

2017年1月14日

  今年も押し迫ってきました。この一年、共に文学を語る濃密な時間を送ることができました。本会では、2017年も文学表現を目ざし、1月の第286回の勉強会は、永畑道子の『恋の華・白蓮事件』を読みます。昭和57年の発表のこの評伝は、大正10年の筑豊の石炭王伊藤伝右衛門の妻燁子の出奔事件、いわゆる白蓮事件から書き起こし、柳原伯爵の庶子に生まれた柳原白蓮が、伝右衛門との再婚、宮崎竜介との再々婚、さらに、昭和42年に81歳で死ぬまでの生涯を綿密な取材で裏付け、女性の自立を目ざした実像を浮びあがらせます。ご参加下さい。

 

2016年12月10日

 師走の候となりました。本会では12 月も第285回目の勉強会を行います。今回は昭和31年発表の石川淳の『紫苑物語』(昭和33年の『八幡縁起』『修羅』を含む)を読みます。これらの物語は、彼の長い作家活動の中期を代表するもので、それぞれの人物に無道(阿修羅)を託して乱世を生き抜く力を与え、歴史と激しく切り結ぶ物語世界を紡ぎ出し、高い評価を得ました。ご参加ください。

 

2016年11月12日

 紅葉の頃となりました。本会では11月も第284回目の勉強会を行います。今回は昭和63年発表の田中小実昌の『アメン父』を読みます。この小説は、作者の父である田中種助の信仰が「アメン」にさしつらぬかれていたことを書いたオマージュといえます。種助はアメリカのシアトルで洗礼を受け、帰国後、バプチスト系の東京学院で学んで牧師になり、天来の霊感に触れる経験を経て、名前を「遵聖」と変え、広島県呉市に「アサ会」という十字架のない独立教会を立ち上げました。ご参加下さい。

 

2016年10月8日 

 彼岸花の咲く頃となりました。本会では10月も第283回目の勉強会を行います。今回は昭和49目発表で第71回の直木賞を受賞した藤本義一の『鬼の詩』を読みます。明治の上方の落語家、桂馬喬の芸に賭ける執念と厳しさを描いたもので、二代目の桂米喬をモデルにしています。米喬は初代桂春團治にも影響を与えたほど人気を博した落語家だったといいますが、それをエキセントリックな人物像に仕立てたのは、映画監督の川島雄三を描いた『生きいそぎの記』とも共通する、作者藤本義一の文学を含めた芸道に対する厳しさを反映したものといえるでしょう。ご参加下さい。

 

2016年9月10日

 稲穂が黄金色になりました。本会では9月も第282回目の勉強会を行います。今回は昭和48年に第5回日本文学大賞を受賞した武田泰淳の『快楽(けらく)』を読みます。この小説は自伝風に書かれたフィクションで、19歳の僧侶の柳覚が、仏教の平等主義の理念と寺院組織の矛盾に悩み、平等主義の実践としての政治活動にも加わりますが、警察の弾圧や先鋭化する運動から脱落し、また、青年期特有の性の問題などが絡み、世俗の快楽から脱け出して仏弟子としての快楽(けらく)を目指しますが、テーマがひろがりすぎて、身体的疲労も重なり中断を余儀なくされます。ご参加下さい。

 

2016年8月13日

 夏本番。熱中症にご注意を。本会では8月も第281回目の勉強会を行います。今回は昭和24 年発表の加藤周一の『ある晴れた日に』を読みます。戦時中、青年医師と避暑地に逃れた厭戦的な疎開者との関わりを書いたもので、ある晴れた日に始まった戦争が、ある晴れた日に終わったといくぶん達観的に捉え、ほとんどの国民が不本意にも逃げ場のない生死の瀬戸際に立たされたことを思えば、少し緊迫感に欠ける誹りは免れませんが、戦争と平和を考え直す手掛かりを与えてくれます。ご参加ください。

 

2016年7月9日

 梅雨明け間近になりました。本会では7月も第280回目の勉強会を行います。今回は大正15年発表の葉山嘉樹の『海に生くる人々』を読みます。第一次世界大戦後の好景気を背景に、過重積載の石炭運搬船で、過酷な労働を強いるだけでなく、怪我をしても放置するだけの船長の非情さに、船員たちがストライキで立ち上がります。作者が刑務所収監中に体験を元に書き、小林多喜二の『蟹工船』にも影響を与えています。プロレタリア文学の秀作といわれ、図式的な捉え方に時代を感じますが、自然描写や人物造形の卓抜さで、現在でも読み継がれる作品の生命力を持っています。ご参加下さい。

 

2016年6月11日

 梅雨前の暑い日が続きます。本会では6月も第279回目の勉強会を開きます。今回は大正11年に発表された野上弥生子の『海神丸』を読みます。その5年前に実際に発生した貨物船の遭難事故を題材としたもので、飢餓に追いこまれた極限状態の人間がどのような行動をとるかといった問題を突きつけています。4人の乗組員のうち2人が若い船員を食べようとして殺し、食べることが出来なかった顛末を書いています。発表後50年ほどして『「海神丸」後日物語』が付記され、カニバリズムの可能性を示唆しています。ご参加ください。

 

2016年5月14日

 新緑が美しい頃となりました。本会では5月も第278回目の勉強会を開きます。今回は三浦哲郎の自伝的大作『白夜を旅する人々』を読みます。この小説は、青森のある町の呉服屋一家の過酷な運命を書いたもので、6人の子供のうち長姉と三女がアルビノ体質で生まれ、そのことが他の兄妹に影響し、受験に失敗した次女が投身自殺をし、長兄が失踪、長姉も服毒自殺をします。そうした兄姉の悲劇を、作者のモデルの三男の成長をまじえて客観的に描く手法で、私小説の範疇を越える物語世界を創り出しています。ご参加ください。

 

2016年4月9日

 桜の季節になりました。本会では4月も第277回目の勉強会を開きます。今回は澤地久枝の『密約外務省機密漏洩事件』を読みます。このノンフィクションは、昭和46年に生じた外務省機密漏洩事件、いわゆる西山事件をテーマとするもので、沖縄の返還にあたり、日本が米軍用地復元費用を肩代わりする密約があったという問題を、外務省事務官と毎日新聞記者のスキャンダラスな事件に矮小化し、事件の本質を隠蔽した経緯をあきらかにします。ご参加下さい。

 

2016年3月12日

 寒い中にも春の気配を感じます。本会では3月も第276回目の勉強会を開き、平成10年発表の平野啓一郎の『日蝕』を読みます。この小説は、15世紀フランスを舞台に、キリスト教と古代哲学の融合を志す修道士がリヨン近郊で錬金術師と出会い、彼が匿う両性具有者が人心を惑わし天災をもたらすものとして魔女裁判で火刑に処され、そのとき日蝕が始まり、灰の中に金塊のような物質を残す。修道士は、後年、彼はキリストの再臨ではないかと思う、という物語で、擬古文調べ、いくぶんペダンチックながら、西欧文明の解らなさを具現した感じがないでもありません。ご参加ください。

 

2016年2月13日

 寒い日が続きますが、本会では2月も第275回目の勉強会を開き、水上勉の『金閣炎上』を読みます。この小説は昭和54年に発表され、昭和25年7月に起こった金閣寺放火事件を扱っています。三島由紀夫も『金閣寺』を書いていますが、作者の理屈に事件を従わせる傾向が強く、水上では郷里も近く自分の境遇によく似た犯人の林養賢に同情以上の共感を抱き、生い立ちから家庭環境、吃音、寺での生活、事件の経過、裁判記録など、詳細に事件を追跡調査して、林養賢の心情に寄り添いながら事件の全容を描き出しています。ご参加下さい。

 

2016年1月9日

 年末の慌ただしい時期になりました。今年1年有り難うございました。本会では2016年も毎月1回の勉強会を開きます。1月の第274回目の勉強会は、昭和46年発表の金子光晴の『どくろ杯』を読みます。この回想的な長編エッセイは、関東大震災後に森三千代と出会い、昭和3年から日本を脱出して上海へ渡り、困窮に徘徊しながら東南アジアを廻って旅費を工面し、三千代をフランスへ送り出し、自分も後を追うまでを書きます。金子の旅は4年間にもおよび、それ以後の経過は、『ねむれ巴里』『西ひがし』と書き継がれます。ご参加ください。

 

2015年12月12日

 師走を前に寒くなりました。本会では12月も第273回目の勉強会を開きます。今回は昭和40年刊行の庄野潤三『夕べの雲』を読みます。小山の上に住む5人家族の秋から冬にかけての日常を連続エッセイ風に書いたもので、江藤淳は「治者の文学」などと評しましたが、やがては宅地開発の波で自然が失われる予兆に、庄野文学の特徴である<日常の不安定性><時間の不帰性>が感じられます。ご参加下さい。

 

2015年11月14日

 今年は寂しい秋になりました。莫覚さんの冥福を祈ります。11月の例会後、偲ぶ会があります。第272回目の勉強会は昭和42、3年発表の永井路子の『北条政子』を読みます。伊豆の豪族の娘として生まれた政子が源氏の武家政権三代を支える葛藤をえがき、その後は京都の貴族政権との対立を経て執権政治を確立します。作者は従来の女丈夫とかの悪いイメージを否定し、激動の時代を生きた鎌倉女性の典型として政子を描いています。ご参加下さい。

 

2015年10月10日

 昨今の自然の猛威には心が痛みます。本会では10月も第271回の勉強会をひらき、森崎和江の『からゆきさん』を読みます。このノンフィクションは、明治から昭和前期にかけて海外で娼婦になった「からゆきさん」の実態をあきらかにしたもので、その存在を広く世に知らしめました。同じテーマの作品には山崎朋子の『サンダカン八番娼館』が有名ですが、森崎は彼女にも大きな影響を与えています。この国の近代の歴史の中で、社会の底辺を支えたこうした「からゆきさん」の存在を忘れてはならないと考えます。ご参加下さい。

 

2015年9月12日

 残暑御見舞申し上げます。本会では9月も第270回目の勉強会を開きます。今回は島村利正の『奈良登大路町・妙高の秋』を読みます。この短篇集には昭和19年から歿年の昭和56年までに発表された8編が収められ、信州高遠に生まれ、奈良の古美術関係の出版社飛鳥園で働き、後に東京へ出て統制団体に勤めるなど、紆余曲折に富む人生の時々に出会った人々を、深い共感を以って描き出し、その確たる生(レーベン)の在りようまでも表現し、古風ながらも存在感のある作品を残しています。ご参加下さい。

 

2015年8月8日

 酷暑が続きます。本会では8月も第269回目の勉強会を開きます。今回は昭和57年発表の井上光晴『明日 一九四五年八月八日・長崎』を読みます。この小説はサブタイトルにあるように8月8日から翌日の早朝まで、浦上地区などで暮らす人たちの結婚から出産までの日常を書いたもので、8月9日午前11時2分に米軍の原爆投下によって一切が破壊されてしまいます。作者の想像力が人々の戦時の日常を描くことに力点を置き、それが書かざる原爆投下の意味をより強く読み手に印象づけます。ご参加下さい。

 

2015年7月11日

 紫陽花が美しい頃となりました。本会では7月も第268回目の勉強会をひらきます。今回は昭和23年発表の大佛次郎『帰郷』を読みます。海軍の将校だった男が、公金横領の罪をかぶって妻子を捨てて海外に逃亡し、敗戦直前のマラッカでスパイ容疑で逮捕され、戦後、18年ぶりに日本に帰っても居場所がなく、娘に再会後日本を去るというストーリーで、エトランゼの眼をとおして、変わらざる日本の伝統文化と対比させながら、激変した敗戦後の日本の世情や日本人を批判しています。ご参加下さい。

 

2015年6月13日

 杜鵑の鳴く頃となりました。本会では6月も第267回目の勉強会をひらきます。今回は昭和47年に刊行された井上靖『後白河院』を読みます。後白河院は29歳で第77代の天皇になり、在位3年で譲位しますが、以後34年にわたって院政を行いました。この小説は政治の実権が公家から武家へと転換する激動期に、何度となく危機を乗り越えて生きたその半生を、平信範、建春門院中納言、吉田経房、九条兼実の4人に語らせる形で描き、複雑な人間性を含めて、井上靖流に解釈された後白河院の姿を提起しています。ご参加下さい。

 

2015年5月9日

 新緑の美しい頃となりました。本会では5月も第266回目の勉強会をひらきます。今回は平成5年発表の吉目木晴彦の『寂寥郊野』を読みます。この小説は朝鮮戦争時にアメリカ兵と結婚し、いわゆる「戦争花嫁」として南部ルイジアナに住む幸恵が、60代半ばにアルツハイマー病を発症する話を軸に、閉鎖的な深南部に30年以上も住んだ心労や夫の事業の失敗で資産のすべてを失う苦労が重なり、幸恵は夫に禁じられていた日本語で話し出しますが、夫には理解できません。国際結婚と高齢化の問題は現代でも大きな意味を持っています。ご参加ください。

 

2015年4月11日

 桜の季節となりました。本会では4月も第265回目の勉強会をひらきます。今回は平成6年刊行の吉村昭『天狗争乱』を読みます。幕末維新に大きな影響を残した水戸藩尊王攘夷派の激派(天狗党)は元治元年三月に筑波山で蜂起し、京の一橋慶喜に攘夷実行を訴えるため西上しますが、慶喜が追討軍総督であると知り、越前国新保宿(敦賀市)で投降し、天狗勢823名のうち352名が処刑され、慶喜と幕府の権威が失墜します。吉村昭の歴史小説は史実を正確に書くだけでなく、時代の空気感まで表現した点が高く評価されています。ご参加下さい。

 

2015年3月14日

 梅の花が咲く頃となりました。本会では3月も第264会目の勉強会をひらきます。今回は長谷川四郎の『シベリヤ物語』を読みます。底本は昭和27年(1952)発行の初版8編に3編を加えた長谷川四郎作品集Ⅰに収載されたものです。彼は昭和20年から昭和25年まで約4年半シベリヤに抑留され『シベリヤ物語』や『鶴』などにまとめられる短編を発表しました。この連作短編は、過酷な労働に従事した虜囚生活をそのまま書くのではなく、シベリヤに生きる人々の姿を正確な観察に基づく的確な表現で描き出し、それぞれの運命まで洞察させる好印象を与えます。ご参加下さい。

 

2015年1月10日

 年の瀬も押し迫ってきました。本会では2015年も決意を新たにして、文学表現に精進したいと思います。1月の第262回の勉強会には、大正4年発表の高浜虚子『柿二つ』を読みます。この作品は、正岡子規の歿後13年たって書かれたもので、近代俳句の革新を進めた子規の晩年の5年間を題材にして、彼の死に至るまでの様子を冷静な筆致で書きあらわし、子規との人間的文学的葛藤を抱えながらも、子規の文業を継承し発展させていく虚子の立場を、明らかにしています。ご参加下さい。

 

2015年2月14日

 世情不安が続きます。本会では2月も第263回目の勉強会をひらきます。今回は昭和49年発表の三木卓の『震える舌』を読みます。作者の体験を元に書かれたこの小説は、幼い娘と破傷風という病魔との闘いや、介護する両親の狼狽や焦燥、極度の看病疲れからくる精神的不安や感染疑惑、さらに、致死率の高い破傷風から小児を救うために奮闘する医師たちの姿を通して、平凡な家庭に降りかかった危機を描き、人間の脆弱さや無力感、一方で、それに立ち向かう強さを感じさせます。ご参加下さい。

 

2014年3月8日    横光利一『上海』(岩波文庫)

 

 梅の咲く頃となりました。本会では3月も下記のとおり、第252回勉強会を開きます。

 今回は昭和7年に発表された横光利一の『上海』を読みます。横光は昭和3年に上海へ行っていますが、帰国後、その体験を元に『ある長編』の連作を書き継ぎました。この小説はそれに加筆訂正して発表したもので、大正14年に起こった五・三〇事件の上海を小説の場として、その掃き溜めのような海港都市に生きる日本人たちの姿を中心に、横光特有の新感覚派的表現を駆使して描いています。ご参加下さい。

 

2014年4月12日   竹西寛子『山川登美子』

 桜の頃となりました。本会では4月も下記のとおり、第253回勉強会を開きます。

 今回は昭和60年発表の竹西寛子の『山川登美子』を読みます。山川登美子は与謝野鉄幹主宰の「明星」で活躍した、鳳晶子(与謝野晶子)と並び称せられる歌人ですが、薄幸な結婚の後、わずか三十歳足らずで亡くなりました。竹西は、彼女の挽歌の特質に焦点をあてながら、その生涯をたどり直し、短歌の成熟という観点から、この夭折の歌人の意味を考え、評伝と評論を融合した新しい境地を開きました。ご参加下さい。

 

2014年5月10日   深沢七郎『笛吹川』

 新緑の頃となりました。本会では5月も下記のとおり勉強会を開きます。今回は昭和33年発表の深沢七郎『笛吹川』を読みます。この小説は、戦国時代の甲斐の国で笛吹川のたもとにあるギッチョン籠と呼ばれた貧しい農民の六代にわたる歴史を書いたもので、信虎から勝頼まで武田家の盛衰と共に生き、そして、翻弄され、それを笛吹川の自然の脅威と同様に甘受して、生き死にを繰りかえす一族の命運を、残酷ともいえる乾いた筆致で書き綴り、無数の土民の生き様を通して時代相まで描き出しています。ご参加下さい。

 

2014年6月14日   宇野千代『色ざんげ」

 梅雨の季節となりました。本会では6月も下記のとおり、第255回の勉強会を開きます。今回は、昭和10年発表の宇野千代の『色ざんげ』を読みます。この小説は、フランスからの帰朝そた画家の東郷青児が、妻とは別の3人の女性と交際した話を、その後一緒に暮らした作者が聞き出して小説としたものです。二科会での東郷青児の活躍や進歩的な女性としての宇野千代の関わりなど、ゴシップ的な意味で話題を呼んで読まれてきましたが、時代が変わってこの男女の愛憎劇から何を読み取ることができるか、話し会いたいと思います。ご参加下さい。

 

2014年7月12日   川上弘美『真鶴』

 梅雨明けが近づき日差しが強くなりました。本会では7月も下記のとおり、第256回勉強会を開きます。今回は、平成18年発表の川上弘美の『真鶴』を読みます。夫が失踪して12年になる45歳の女が、自分の分身みたいな女に誘われるように、夫の日記にあった真鶴を訪ね、何度も足を運ぶうちに夫が失踪した事実を受け入れ1年後に失踪宣言をして決着をつけ、精神的な安定を得ると女も消えてしまうというストーリーで、精神的に不安定な現代人の心理状況と重なって、読むものを小説世界へ引き込んでいきます。ご参加下さい。

 

2014年8月9日    堀田善衞『方丈記私記』 

 酷暑が続きます。本会では8月も下記のとおり第257回勉強会を開きます。今回は昭和46年発表の堀田善衞『方丈記私記』です。これは戦後26年たって前年の三島事件に見られる復古主義的傾向が強まる中で書かれたもので、昭和20年3月の東京大空襲の体験から見出した鴨長明『方丈記』における記録文学的意義を明らかにし、隠者の無常観のみで捉えられた長明の時代を見る目の確かさを描き出しました。転変地変の記録は現代にも通じ、平成23年3月11日の東日本大震災やそれに続く原発事故のあとの『方丈記』再読の機運に先駆け、堀田の時代観の正しさを示しています。ご参加下さい。

 

2014年9月13日    小島信夫『墓碑銘』

 法師ゼミの鳴く頃となりました。本会では9月も下記のとおり第258回勉強会を開きます。今回は昭和34年5月から翌年2月まで雑誌「世界」に連載された小島信夫の『墓碑銘』を読みます。日米開戦の頃、白人と同じ外形のために軍隊になじめないアメリカ系日本人の青年が、異父妹の献身的な支えもあって日本軍人として一人立ちし、レイテ戦では、外形のみを利用されて斬込作戦のオトリとなり、最後、米軍の服も日本軍の服も脱ぎ捨て、裸の人間として米軍の小銃の前に立ちます。主人公の状況は、戦後、西欧文明の下に生きてきた現代の日本人が、戦争に直面するときの近未来の問題を提起しているともいえます。ご参加下さい。

 

2014年10月11日    鈴木三重吉『桑の実』

 漸く秋らしくなりました。本会では10月も下記のとおり第259会の勉強会を開きます。今回は大正2年発表の鈴木三重吉の『桑の実』を読みます。彼は夏目漱石門下で、童謡と童話の雑誌「赤い鳥」の発行で有名ですが、その前には小説も書いており、『桑の実』はその代表作といえます。肉親の縁の薄い娘が、カフェ―の女主人の紹介で、妻と別れて小さな男の子と暮らす画家の家に臨時に手伝いに行き、画家や男の子とも馴染んで平穏な日々が続くうちに、新しい婆やが見つかって、画家に惜しまれながら帰って行くという話で、清潔で透明感のある印象を残し、のちの児童文化運動の活躍にも繋がる特徴を見ることができます。ご参加下さい。

 

2014年11月8日     永井荷風『夢の女』

 勉学の秋本番。本会では11月も下記のとおり第260回の勉強会を開きます。今回は明治36年に永井荷風が23歳で発表した『夢の女』を読みます。明治維新後、岡崎藩士の娘が女中から妾になり、主人の死で家へ帰され、詐欺容疑の父の借金のために、洲崎遊郭の花魁になります。その後、相場師に身請けされ、料亭の女将として生活が安定し、親や子供を呼び寄せますが、妹は役者と駆け落ちし、昔を懐かしむ父は妹を捜す途中に事故で死に、女は生活と戦う意気と精力を無くします。前年発表の『地獄の花』同様、師事した広津柳浪や、さらにはエミール・ゾラの自然主義思想が色濃く反映し、彼の文学展開の礎ともなる作品です。ご参加下さい。

 

2014年12月13日

 晩秋の候。本会では12月も下記のとおり第261回の勉強会を開きます。今回は明治42年発表の岩野泡鳴『耽溺』を読みます。国府津へ脚本を書きに行った僕が、料理屋の抱え芸者の吉弥と馴染みになり、自分の芝居の女優にしようと金を出して東京に帰しますが、彼女が梅毒性の眼病に罹っていて、関係を断つというストーリーで、耽溺というわりには、女にも状況にもそれほど耽溺できない弱点があります。泡鳴はこの作品が評判を取って自然主義の作家としての地歩を確かなものにし、次の泡鳴五部作を書き継ぐことになります。ご参加下さい。